からくり侍 二
その月に戦が起こった。件の依頼主は数人の部下を引き連れ、陣の中でじっと戦況を観察していた。天地を突き破るような絶叫が耳に木霊する。
「申し上げます」
その前にどこからともなく一人の忍が現れた。乱太郎だ。
「撤退をお考え下さい」
「何故じゃ」
真っ直ぐに戦場を睨む顔つきを全く変えないまま、殆ど無感情で依頼主は呟いた。
「力は拮抗して五分と五分、総大将は援軍の当てもなく、また相手はただこちらの領地を通過しただけのこと、負ければ大損ですが勝っても何の得もありません」
「ほお」
切れ長の目を細め、乱太郎へ視線を移した。しばし沈黙。乱太郎の周囲をじわりと殺気が取り囲む。
ややあって、
「無礼な男だ。私は退かぬ」
と言った。男の部下数人が刀の柄に手を掛けた。それを依頼主が無言で制する。
「私は此度の戦で手柄を上げなければならぬ。長々と田舎で力を蓄えて、ようやく世に出る機会を得たのだ。後の世に残る名を成さねばならぬ。それが武士道というもの、おぬしらのような忍者には判らぬだろうがな」
何やら考えの変わる事でもあったのだろうか。深々と頭を垂れながら、乱太郎は訝しんだ。
最初に雇われた時には、如何にも田舎で呑気に生きてきた、ただの豪農であった。長者となれたのも、先祖代々の土地柄と適材適所をわきまえた人使いの良さ、更に加えて温厚な気質のためであって、今こそ自らを武士と呼ぶが、実際は今も昔も当人に武人としての才能は微塵も感じられない。ちょっと力を付けてきて戦に出たりしてみたが、恋女房の存命中は嫌々出て行っている感もあった。お倉が倒れてから、その傾向は一時期ますます強くなっていたとも思ったのだが。
男の顔は野望を携えるにはあまりにも誠実である。元来そういう顔つきをしているわけでものあるのだが、この間、兵太夫と梁の上で擦れ違ったよりも一ヶ月ほど前からだろうか、少しずつ変化があったような気もする。
妻を失った悲嘆にくれ、その生き写し人形を作らせた当人とは思えない変化だ。
武士は遠くを見る目で、下に手をつく乱太郎を見た。陽光を背にどっしりと腰掛ける男の顔を、乱太郎は下から見上げる形になる。何所から湧いているのか乱太郎に判りはしないが、揺るぎない意志でもって死地へ赴く男の顔だ。
こういう人間は見飽きているが、それでも感慨深くならずにはいられない。一月以上も周辺で雑務をまかされていたので情が移ってしまったのだろうか。出来ることならば留めたいと思ったが、それが不可能なことだと先の会話で判ってしまった。
この男は死にに行くのか生きに行くのか、自ら選択しようとしているのだろう。じっと向き合い、互いの目を見て考えた。
ふう、と依頼主が浅いため息を吐いた。
「しかしここに来て心残りがある。あの絡繰り師のことだ」
一瞬だけ以前の気弱なただの農夫に戻った気がした。
「詫び状は確かに届けたろうな?」
「三日前に」
とはいえ兵太夫の性格からして信用はならないな、と乱太郎は心の中で呟いた。それを知ってか知らずか、依頼主はうむと頷き、少しばかり考え込んだ。そして今度は武士の顔で、
「ぬしの最後の仕事を考えついたぞ」
と悲しげな半笑いで言った。
「護衛致します」
乱太郎が頭を垂れると、益々悲しげに笑った。乱太郎は怪訝に思いながらも、この男の真摯な悲しみの一つに自分に対する信頼も入っているのだと感じ、少しばかり胸が熱くなった。
恐らく武士はこのまま望みのない戦いへ駆けていき、破れるだろう。乱太郎はそれを見捨てる運命となることを知っていたし、そうするつもりであった。今回の件、雇われの忍が命を捧げるほどの報酬はない。報酬に相応する働きをするのが忍者の約束で誇りなのだ。
だからこそ、最後という仕事が何であれ、誠心誠意を尽くしたい。そういう風に考えたのは乱太郎が優しすぎるからだろうか。
しかし依頼主は首を振り、
「直ぐに屋敷へ戻り、お倉を連れて参れ」
そう言われた時、乱太郎は一瞬何を言われたのか判らなかった。どうして遠く離れた屋敷に座る娘人形が今必要だろうか。もう不要になった、という意味の事を言っていたではないか。
しかしつい先程見た、気弱な顔を思い出して、やはり優しい気質や妻を失った悲しみはそうそう簡単に消えるものではなかったのだと思い直した。添い遂げるつもりなら、それもいいだろう。
暑い。正午の太陽が機嫌良く真上から照らすものだから、たまったものではない。両脇は涼しげな森だが、馬や馬車の通る広い道のために日陰は及ばない。森の中を走ろうかとも思ったが、そうすると時間が掛かる。人目が無い内はもっとも走りやすく近い道を行く。でないと乱太郎の足でも、かの依頼主が戦場で散る前に人形を抱えて戻ってこれるかどうか判らない。
風のように走る。彼の足に付いていける者はそうそういないだろう。目の前を通り過ぎていくと、誰もがその目を疑う。獣じみているとか神がかっているとか、あるいは妖術のようだとか、そんな不可思議なものではない。乱太郎は確かに人間そのものの動きをしている。だがそれが恐ろしく素早く、そして完全に理想的な動作に見えるのだ。
それにしても戦が近くで起こっているというのに、この人気の無さは何なのだろう。乱太郎にとっては大変都合の良い事だが、どうにも不気味だ。嵐の前の静けさと言うのだろうか。それとも、ここいらの人間は全て戦に駆り出されてしまったのだろうか。
もちろん、その筈はない。女子供は残っているはずだし、多くの商人、香具師が戦場に駆けつけている。或いは戦の混乱に付け込もうとする盗賊の類、それと大して変わらぬ浪人達で賑わうのが普通だし、実際に陣を出るまではその気配があった。
しかし走り続けていると、ある時ふっと人気が無くなったのだ。祭の賑わいが一瞬訳もなく途切れる時の様に。虫の鳴き声が風を突き抜けて耳に刺さる。酷い孤独に不安を感じる。
誰かこの沈黙を打ち破ってくれ、と願った時、道の向こうからゆっくりと進んでくる荷馬車を見つけた。
荷馬車といっても引いているのは馬ではなく、堂々たる体躯の巨漢である。蜻蛉揺れる坂道をゆっくりと登ってくる。人足の足取りから、荷は酷く重いものに見えた。男の額から汗が幾筋も流れている。
乱太郎は一瞬迷った後、足を止めた。
「あれ、乱太郎じゃないか」
車を引いていた男が顔を上げ、目を丸くした。最初は驚き、次に懐かしさを滲ませた。
「しんべヱ」
乱太郎も懐かしく応じる。車引きの人足と見えたのは嘗ての同窓生、福富しんべヱだった。
「いや、暑いね。こう暑いと、もう働くのも嫌になるよ」
久しぶりの再開だったが、手と手を取って喜ぶような状況ではなかった。
「重いのかい」
「何人か入ってるからねぇ」
ちらりと荷を見やって、腰から下げた手ぬぐいで汗を拭きながら付け加える。
「物騒なものじゃないよ」
乱太郎が苦笑した。不審が顔に出ていたらしい。
しんべヱが荷の蓋を叩くと、大きな木箱の蓋が独りでに開いた。中身は補給品らしい。砲弾やら何やらが傾いて、その底板の下から人が手を出していた。上げ底になっている荷箱の下に人が隠れられるようになっているらしい。しんべヱの言うとおり、成る程何人か潜んでいるようだ。
「よう、乱太郎」
とそこから顔を出したのはまた懐かしい顔で、やはり同窓のきり丸だった。
「戦になると仕事が増える」荷物の影できり丸がにっと笑った。「しかし楽な仕事じゃないな、お互い」
きり丸の奧にもう何人か潜んでいるようである。その空間は影の暗い色で、涼しげだが空寒い。
乱太郎は何と返せばいいか判らずに、きり丸に向かって「そうだね」と笑いかけた。
「しんべヱは店を空けていいのかい?」
「うん、まあ焦らした方が良い商談もあるんだよ。ふう」
福富家は堺の港を縄張りとする、裕福な商人の一つである。その跡取り息子であるしんべヱは嘗て誰よりも小さく、泣き虫であった。それが学園で学ぶ六年間にうちに、いつの間にか乱太郎よりも頭一つぶんは高くなっていた。だがまるまると太っているのは変わりないので、それなりの恰好をしていれば良く脂肪を蓄えた立派な商人のように見える。
しかし今のように殆ど裸同然の恰好で車を引いていると、どちらかというと隆々とした筋肉が目立って屈強な相撲取りのようである。
そのしんべヱは再び額から流れ落ちる汗を拭い、これ以上話すことなどないと言いたげに再び車の手を持ち上げた。お互い仕事中の身、多くを語るわけにはいかない。きり丸も静かに蓋を元に戻した。
「それじゃあ、また。そのうち店に顔を出してよ」
「行くと無茶な仕事が入ってきたりするんだもんなぁ」
「それはそれ、ちゃんと報酬も出してるでしょう」
「友情割引じゃないか」
けらけらと笑いながら、二人ともゆっくり歩き出した。向かい合い、道を譲りながら。
擦れ違いながら、乱太郎はもう一度積み荷の木箱を見た。どこの依頼か知らないが、来ている方向から考えると乱太郎の依頼主と同じ側の補給だろう。しかしその中に人が隠れているとなると、味方の裏切りか、それとも敵の奇襲か。いよいよ負け戦の色が濃くなってきた。
引き返して忠告しておこうかとも思ったが、主は補給の手配はしていなかったし、いくら困窮していても正体のわからぬものを容易に受け入れるような不用心な人物でもない。
どこか別の隊へ運ばれるのだろう。そうなれば知ったことではない。
乱太郎は振り返り、しんべヱに笑いかけた。しんべヱも笑って返した。
それからまた地面を蹴り、森の影の中へ走り出した。あっというまに車からは見えなくなる。風のようだ。
「相変わらず乱太郎は足が速いな」
箱の中できり丸が行った。それにしんべヱがうんうんと頷いた。
向かってくる何かが、いる。山道を猛烈な速度で走っていた乱太郎は、咄嗟に気がついて横の木々の間へ飛び込んだ。
ひゅうん、と音を立てて何かが道の向こうから真っ直ぐに飛んできた。それを横目で身ながら、今度は頭上の枝に手をかけ、猿のように軽々と枝の上に飛んだ。再び幾つかの苦無いが飛んでくるが、上へ逃げた乱太郎へは当たらない。
枝の上を飛び、或いは伝い、ぶら下がりながら乱太郎の進む速度は先程までと殆ど変わらなかった。腰に差した短い忍刀を抜き、それを器用に木の幹に射したり飛ぶ足場に変えたりしながら前進し、同時により高い木へと移っていく。
彼を襲う何者かは何度も苦無いを投げ飛ばして来たが、あまり高いところは狙えないらしく、有る程度の高さまで来ると全く見当はずれな低い位置を狙い始めた。
これは妙だ、と思いながらも進みを止めるわけにはいかない。そうしているうちに、陽光眩しい木々の頭の所まで来てしまった。木の葉の向こうに太陽が見える。その先に一本だけ高く伸びた樹木を見つけた。それに飛び移り、登る。
乱太郎は器用にも一番上の細く尖った枝の上に立ち止まった。枝の先は小さな点の足場である。そこは頭上直ぐに雲があるような、高い高い木の上だ。下を見渡すと、先程まで自分が走っていた道がどこまでも続いていた。来た道には豆粒のようなものが遠くでゆっくりと動いている。しんべヱ達だろう。
息を止めるようにして、乱太郎は注意深く下を観察した。道に幾つか黒い苦無いが落ちている。それを辿る。その先に、笠を被った人影があった。きょろきょろと辺りを見回している。頭上に探す相手がいることには気づけぬらしい。
それにしてもその人影、少し様子がおかしい。首を回して辺りを見ているようだが、どこかぎこちないのだ。その上、異常に小柄な人物のようである。遠目に見ているために、最初は錯覚かと思ったが、どうもおかしい。小人の刺客なのだろうか?
小人は相変わらずくるくると首を回して周囲を伺っている。かと思うと、今度は突然苦無いを無差別に投げ始めた。前、後ろ、右、左とてんで出鱈目だ。幾つもの黒い影が道に落ち、木々の間に消える。その動きが何所かこっけいで、以前どこかの村で見かけた人形舞いを思い出した。
あれは、歌師の声に併せて人形師が糸を手繰って人形に様々な舞いや芝居を行わせる、旅の男女が見せた芸だった。男が歌い女が糸を操った。へっぴり腰で女の寝床に忍び込む男、向こう岸の男の為に危険な吊り橋を断腸の思いで渡る女……。こっけいで、浅い夢のような不思議な見せ物だった。
「あっ」
いつの間にか小人の動きに引き込まれていた乱太郎は、また別な黒い影が木々の間へ飛んで入ったので仰天した。下で奇妙な動きを続ける人影と同じくらいの大きさで、気を取られていた乱太郎にはあっというまに走ってきて森の中へ消えたように見えた。本当にそんな影があっただろうか、と思った瞬間、乱太郎の乗っていた木が軋む音がした。
別な小人が、細い樹木の幹に振り上げた刀を突き刺している。刀を力一杯突き立てられた幹は悲鳴を上げながら、頭の上に抱えている荷物を振り落とさんとするように、罅の入った胴体を折り始めた。
乱太郎は真っ直ぐに落ちる。根本で豆粒のような人物が空を仰ぎ見ている。湿った戸板色の顔色の男の彷徨う視線の先に、乱太郎はいない。
地面へ落ちる前に別の樹木へ飛び移った乱太郎は、うろうろと宙を探す男の背中に抜いた忍刀を翳して飛びかかった。
ぱかん、と竹を割るような音を響かせて、男は頭から背中まで二つに割れた。
軽い音をたてて崩れ落ちた男からは、飛び散るはずの飛沫がない。当に男は竹であった。頭も胴も、洞である。僅か絡繰りの細工が籠められているのみだった。
絡繰りに疎い乱太郎には、その部品が何を意味しているのかさっぱり判らない。何故、このような木偶人形が動いていたのか皆目見当が付かぬ。魑魅魍魎妖怪の類ではないかと訝しんでいる後ろで、足音が鳴った。
森の茂みの向こう、ようやく乱太郎を発見したもう一人の刺客が、ぎこちない動きでこちらを仰ぎ見る。刺客は乱太郎の半分ほどの体躯しかない。よもやと思ったが、黒い墨を沈めさせた両目が摩訶不思議な絡繰りによって突如赤く変わったのを見、これまで自分が戦っていた相手は良くできたからくり人形だったのだと理解した。そしてこのような物を作れるのは、この世で一人しかいない。
人形は再び苦無いを飛ばした。
だが、絡繰り共が上を認識する能力が低いということは先程の攻防で判っている。乱太郎は再び樹上へ飛び上がり、人形の真上の枝へ止まった。
やはり、この人形は上を向くことすらできぬらしい。忍刀を両足に挟むように構え、そのまま真下に飛び降りた。
白く塗られた月代の真ん中に、切っ先が中る。男の全身に亀裂が走り、箱を開くように体内を晒して砕けた。本来ならば五臓六腑が飛び散るところ、その人形が洞に抱えていたのは、数百はあろうかという黒い苦無だった。
金属の打ち合う音を鳴らしながら、苦無が崩れ落ちる。
自動で苦無打ちを行うからくり人形だ。
「見事すぎて腹が立つな」
木陰から姿を現したのは、予想通り兵太夫であった。先日の梁の上では乱太郎と似たような黒い忍装束を着込んでいたが、今は武家の者らしい直垂姿であった。しかし戦の最中であるのに、鎧は付けず普段着姿である。今回の戦に笹山家として関わっていないということだろうが、それにしても彼が直垂姿でいるのに違和感を持った。乱太郎は、兵太夫が武士を廃業しからくり師として生活しているものとばかり伝え聞いていたからだ。
「やっぱり、これは兵太夫の作品か」
「うん。まあ、僕以外にこういう物を作れる人間がいたらお目に掛かりたいね」
兵太夫は飄々と受け答えをした。
「何で僕を狙った?」
「実戦で使えるか、試してみようと思ったのさ。で、まずまず、といった所」
「これを実戦で使うのかい」
乱太郎は些か呆れた。自分を実験台に使用したこともそうだが、からくり人形を実戦で使用するという発想に驚いたのだ。実戦というのは、つまり戦のことだろう。人形で戦を動かそうという話は聞いたことがない。
確かに、乱太郎を襲った二体の人形は、本物の人間であるかのような精密な動きを見せた。乱太郎の前にあっさりと破壊されてしまったが、普通の足軽数人にならば効果的だろう。乱太郎を認識していた節もあったため、乱戦となっても使えるのかもしれない。
しかし、だからと言って。この血の通わぬ小人形のからくり人形が、血煙舞う戦場にずらりと並ぶ様。乱太郎には、どうにも想像が付かなかった。
「疑っているな? しかし、今に見ていろ。すぐに戦場にはからくりが山のように現れる時代になる。それこそ、武士に取って代わる程に」
「そりゃあ、何万年と先の話みたいだね」
「そこまで先じゃない。数十年から、数百だ」
どちらにしろ、極端に気の長い話だった。
「その頃には兵太夫も僕も生きちゃいないよ」
「判ってないなぁ。今言ったのは、僕がからくりを作っていなかった場合の話さ。それを僕が早める。そしてからくりの重要性を示すことができれば、僕は笹山家に返り咲きだ」
兵太夫の目は野望に燃えている。彼は武士の本分を捨て、からくり師となったのだと聞いていたが、実際はその持論の為に笹山家を破門されていたのだった。その上で、戦で手柄を立てて家へ戻りたいと切望しているらしいと、乱太郎にも感じて取れた。
「しかし、本当は今回の戦で試そうと思ってたんだが、持参した二体はこの通りばらばらだ。学園で学んでいた頃より、ずっと腕を上げたんだな。憎らしいね」
兵太夫の作る人形は全て、戦用のからくりを積んでいる。お倉人形も例外では無かった。その事は乱太郎も依頼主も明らかに知らされていたわけではないが、態とらしく「二体」と言い切った兵太夫の言葉に、ぴんと来るものがあった。
準備の良い兵太夫が、満を持して始まった戦にたった二体のみで挑むだろうか。他にも、あるのでは。
また、兵太夫はお倉人形が正しく使われない事を不満に思っていた。それは先日詫び状を届けた際にも明らかだった。
他の人形はどこにある。
乱太郎はハッとして、猛然と走ってきた道を引き返した。
「感づかれたなァ」
土煙を上げて走って行く乱太郎の後で、兵太夫は独り言ちた。追いつけはしないが、彼もまた、走り出した。