密漁

(僕が殺したも同然だ。もっと早く来るべきだった。委員会の会議なんてどうでもいいことを優先したせいだ。いや、それより前から警戒を強めておくべきだった。もっと早く踏み込んでたらよかった。でも確証が無かったんだ、仕方がないんだ、追ってるのはこいつだけじゃないんだから。仕方がなかった、僕の力が足りなかった、そんな理由で二人も死んだ。誰が責任を取るんだ? 蒸し暑い。もっと早く……でも彼女は最期まで連絡をしなかった。「信じてる」と言っていた。「あの人がそうなら、それで殺されたっていいの」そんなの本気で言うわけない。本気ならあんな恐ろしい死に顔を……携帯を握りしめて……それで僕の番号が表示されてるとかなら、まだ、なぁ、判るんだけど、判るんだけど……気持ち悪い。ギリギリになって助けを呼ぼうと思ったんだろうか。それとも、僕を呼ぶのを思いとどまったんだろうか。どっちにしろあの状態じゃ、呼ばれても間に合わなかった。本当に僕はものの役にも立たないな。旦那さんも酷い死に様だ。家族を喰い殺したんだから、自業自得か。奥さんもそれを望んでたみたいだし、良かったのかな。良かった? 仮に彼女がそれを満足したとしても、子供はどうだったんだろうか。言葉も覚えてないようなあの子供……。やり方を考え直した方が、いい。暑い。空調、切っちゃったからか。自業自得なんて、よく言えるよ。ああ、血の匂いは嫌いだ。ベタベタする……あんなに抵抗されるとは思わなかった。旦那さん、僕が来るのを知ってたみたいだったな。彼女が教えたんだろうか。判らない。何度話をしても、あんまり信用されてないとは思ってたけど。……血だらけだ。その内腐るだろうな。気持ち悪い。……シャワーを借りよう。浴室は二階だって言ってたっけ、確か。早く犯行現場からは立ち去るべきだろうけどなぁ。動きたくない……。僕がここに来た意味は何だったんだろう。奥さんと子供が殺されたんだったら、急ぐ意味もあんまりなかったんだ。彼が次の行動に移るのまでに、もっとやりやすい場所とか時間を選んで来ればよかった。…… チャイムの音! 誰だ?)

さよなら絶望先生 目次

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